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『総督の剣は速さ押しでしょ。剣を繰り出す速さと切り返しの速さ、それに持ち前の身のこなしの素早さで、相手を翻弄して隙を突く。であれば、こっちはそれに合わせるだけでいいんですからね。特に総督の場合、剣筋が綺麗すぎるから、奇を衒ったところもなくて次の手が読み易いし。さして打撃に重さも無いんだから、その動きさえ見極めて受け流しているだけでいい。そもそも体格も筋力も持久力も俺の方が上だし、とりたてて反撃なんてしなくても、避けてれば勝手にあなたから自滅してくれる。疲れて動きが鈍ってくるまでに、そう時間もかからないしね』
流れるようにそれを言われて、思わず目を丸くして絶句してしまった。
――私が勝てなかったのは……それを、こいつに最初から見抜かれていたから、だというのか……?
案の定、いつから気付いていたのかと投げかけた問いには、『最初から』という答えが、事もなげに返ってくる。
『相手の体格と得物を見れば、そんなもの一目瞭然じゃないですか。総督みたいに、特に大柄でもなく筋力が突出しているわけでもない細身で軽量級の人間には、大抵その方法しか取れないし、そのうえ得物が細剣なんて、わかり易すぎるにもホドがある』
そういえば、アレクにも言われたことがあった。『おまえは相手をよく見ろ』、と。王都の武術大会に出場することが決まった時は、『なまじの者なら今のままでも充分だろうが、それ以上の相手には通用しないぞ』とも。
――あれはつまり、こういうことだったのか……。
確かに私は、決して小柄ではないが大柄にはほど遠い体格でしかないし、筋力も体力も持久力も人並み程度にしか無い。それを補うために速さに重きを置いた訓練を重ねてきたし、それを最大限に生かすべく、振るう得物もなるべく軽いものを、と細剣を選んだ。――自分では良かれと思ってやっていたそれが、逆に弱点を曝しているにも等しかった、と……。
自覚した途端、ああこいつに敵わないのは当然だ、と、素直に納得できてしまった。
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