【3】

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 トゥーリは事もなげに言ってのけたが、だからといって、それを言った通りに為すには相応の実力も必要だということくらい、私にだってわかる。なまじっかの腕ごときでは、それを見抜けたところで、こちらの速さに付いてこられるはずもないのだから。剣術だけでなく、乗馬や体術にも通じている彼の身体能力の高さには舌を巻く。筋力に恵まれた体躯は、大柄ながら機敏で、体幹のブレも少ないからバランス感覚にも長けており、柔軟性も充分にある。何をやらせても様になる万能型とは、こういう人間のことを言うのだろう。さらに加えて、『次の手が読み易い』とまで言われてしまうのは、ただ純粋に、踏んだ場数の差でしかない。実戦を想定していない私の剣では、幾度もそれをくぐり抜けてきたであろう彼の経験には、到底及ぶべくもないということか。  これまで自分の貧相な体格に劣等感を抱いてきたがゆえに、ガタイの差だけで相手にデカイ顔をされなければならないのが屈辱で、腕っぷしだけが強さではないことを証明してやると、そんな一心でがむしゃらに足掻いてきたものだったけれど。  こんな人間もいるのだな、と……自分の至らなさを認めてしまったと同時、どこか感動すらも覚えてしまった。  トゥーリは、ただ強いだけの人間じゃない。軍人にはありがちな、脳味噌まで筋肉に変えてしまっているような輩とは、頭の良さが段違いだ。  相手を見て分析し、自分がどう対処すべきか、それを瞬時に導き出すことが出来る。それも息をするくらい自然に。  しかも、しっかり遠ざけておいたにも関わらず、崖上での情報取引の場までも押さえられてしまったのだ。あの注意力と状況判断力、そして行動力にも恐れ入る。  さらには、自分が殺されるかもしれないという命の瀬戸際においてさえ、あの落ち付き払った冷静さと、全く動じる様子さえ見せない度胸。――私への挑発行為についてだけは、いただけない限りだが。  まさに彼は、護衛として側に置くに、極めて申し分のない人材だった。
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