157人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
気が付いたら、彼の唇に口付けていた。
深く舌を絡ませながら、固く膨らんでいた彼のそれにまで手を伸ばしていた。
彼の心も身体も慰めてあげたい。ただ、その一心でのことだった。
――それが彼に拒絶されるものになるとは、思いもせずに。
つまるところ私は、トゥーリの鉄壁の自制心を見くびっていたことになるのだろうか―――。
あそこまでされながら彼は、それでも私に手を出してはくれなかったのだ。
逃げるように彼が去った後も、しばらく座り込んだまま、私はその場を動けなかった。
――もしかして……そもそも自分が彼に想われているというところから、私の自惚れでしかなかったのか……?
思い当たった途端、ふいに涙が溢れてきた。
咄嗟にそれを拭うべく頬に手を添えると、顔にかかったままだったそれに、気が付いた。
絶頂を迎えて吐き出された白い液体。
それを指で拭って、思わず恥ずかしさに居た堪れなくなった。
――私は、なんてあさましいことをしてしまったんだろう……!
その気持ちの裏で、それでも喜んでいる自分がいた。
自分の口付けに反応して、それを固く大きくさせ、手と舌の愛撫で達してくれた。――それを嬉しいと思っている自分に、吐き気を催すくらいの嫌悪を感じた。
――あんなもの、ただの強姦じゃないか。
あそこまでされれば、男なら誰だって反応するに決まってる。私だから、というわけでは決してない。
気持ちの伴なっていない行為など、これまで私がされてきたことと何ら変わらないのに。
自分がされたことを、私から彼に為したというだけ、ただ自分の欲を彼へ押し付けてしまっただけではないか。
あんなに自分が嫌悪してきた行為を、よりにもよって自分がしてしまった、それがどうしようもなく恥ずかしく、彼への申し訳なさで死にたくなった。
――もうダメだ……ここまでしておきながら、平然とした顔なんて装えない。
翌朝になれば、きっと普段どおりに彼は私のもとへとやってくるだろう。
それを、いつも通りに笑って迎えることなど、とてもじゃないが出来そうになかった。
だから私は逃げてしまったのだ。
誰にも…信頼する彼にさえもまだ教えていなかった、私が一人になれる場所へと隠れた。
それでも……彼ならばいずれは見つけてしまうだろうとは、思ってもいたけれど。
最初のコメントを投稿しよう!