【3】

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 気が付いたら、彼の唇に口付けていた。  深く舌を絡ませながら、固く膨らんでいた彼のそれにまで手を伸ばしていた。  彼の心も身体も慰めてあげたい。ただ、その一心でのことだった。  ――それが彼に拒絶されるものになるとは、思いもせずに。  つまるところ私は、トゥーリの鉄壁の自制心を見くびっていたことになるのだろうか―――。  あそこまでされながら彼は、それでも私に手を出してはくれなかったのだ。  逃げるように彼が去った後も、しばらく座り込んだまま、私はその場を動けなかった。  ――もしかして……そもそも自分が彼に想われているというところから、私の自惚れでしかなかったのか……?  思い当たった途端、ふいに涙が溢れてきた。  咄嗟にそれを拭うべく頬に手を添えると、顔にかかったままだったそれに、気が付いた。  絶頂を迎えて吐き出された白い液体。  それを指で拭って、思わず恥ずかしさに居た堪れなくなった。  ――私は、なんてあさましいことをしてしまったんだろう……!  その気持ちの裏で、それでも喜んでいる自分がいた。  自分の口付けに反応して、それを固く大きくさせ、手と舌の愛撫で達してくれた。――それを嬉しいと思っている自分に、吐き気を催すくらいの嫌悪を感じた。  ――あんなもの、ただの強姦じゃないか。  あそこまでされれば、男なら誰だって反応するに決まってる。私だから、というわけでは決してない。  気持ちの伴なっていない行為など、これまで私がされてきたことと何ら変わらないのに。  自分がされたことを、私から彼に為したというだけ、ただ自分の欲を彼へ押し付けてしまっただけではないか。  あんなに自分が嫌悪してきた行為を、よりにもよって自分がしてしまった、それがどうしようもなく恥ずかしく、彼への申し訳なさで死にたくなった。  ――もうダメだ……ここまでしておきながら、平然とした顔なんて装えない。  翌朝になれば、きっと普段どおりに彼は私のもとへとやってくるだろう。  それを、いつも通りに笑って迎えることなど、とてもじゃないが出来そうになかった。  だから私は逃げてしまったのだ。  誰にも…信頼する彼にさえもまだ教えていなかった、私が一人になれる場所へと隠れた。  それでも……彼ならばいずれは見つけてしまうだろうとは、思ってもいたけれど。
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