【3】

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       そんな初めて尽くしの夜に舞い上がっていた気持ちも、時間が経って頭も冷えてくれば、少しずつ醒めてもくる。  己の曝した醜態を思い返すだに、のたうち回るほどの恥ずかしさに襲われて居た堪れなくなった。トゥーリを前にしたら、どきどきと動悸が激しくなって、気持ちまで落ち付かなくなり、うろたえるしか出来なくて、その顔を真正面から見つめるだけのことさえ苦しい。  私がそんな風では、ただでさえ恥ずべき噂になってしまっているというのに、また良からぬ噂で恥の上塗りをされてしまう。――他人の噂に何だかんだ左右される生活なぞ、もう二度と御免こうむりたい。  ならば、普段以上に毅然としていなくては! と、こちらが無理矢理のように己を律しているというのに。  対するトゥーリが、常にヤル気全開で私に迫ってくるものだから、もうたまったものじゃなかった。  ただでさえ、私の薄っぺらい化けの皮なんて、吹けば飛ぶくらいのものでしかないのに。触れようとする彼の手を一度でも許してしまったら、そのまま最後まで流されてしまうのが目に見えている。  だから、盤戯の勝負にかこつけてまで、その手を拒み続けていたというのに……しかし結局、彼が欲しいという自身の欲求には、私ごとき意志の弱さでは到底、最後まで逆らい続けることなど出来なかった。  翌日は休みだから、なんていう理由をこじつけて、酒の勢いまで借りて再び彼に抱かれてしまえば、もう後は流されるままだった。  普段の日常の中で隙あらばとばかりに触れてくる彼の手を、口付けてくる唇を、頑として押し止めることさえも、もはや出来なくなっていた。  初めての時のような激情は無くても、穏やかに彼に愛されながら流れゆく日々は、本当に、とても幸せで、それ以外には言い様がなくて……。  そうやって緩やかに流れる二人だけの時間は、ひとときの間ではあったけれど、全てを忘れさせてくれた。  自分が抱えている秘密、その望み、――これから起こるだろう嵐を。
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