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なあトゥーリ、――と。
記憶の中の面影へと語りかける。
――あのとき……私がどんなに嬉しかったか、おまえにはわかるか?
アレクに連れられて、彼が私の屋敷まで会いにきてくれた時。
自身の小心さゆえに彼を手放してしまった、そんな私の身勝手さを許してくれた、その言葉。
『総督を軽蔑しようが何をしようが、それでも俺は、あなたを愛することはやめられないと思う。たとえ袂を分かつようなことになったとしても、それでも俺は、あなたを理解したいと願うことをやめないと思う』
その言葉で、私の中に重く凝り固まっていた恐怖が、途端にスッと軽くなってくれたような気がしたのだ。
何があっても自分はあなたを想っているから、安心して。――そう言ってもらえたような気がした。
トゥーリになら、私の汚れた部分の全てを開いてみせても大丈夫かもしれないと思えて、自然に心が軽くなった。
なぜ私は、たかがこんなことを、そんなにも怖がっていたのだろう、と、自分が愚かにさえ思えた。
――なんて単純な。
あんなにも悩んで考えて苦しんでいたのが嘘のように、気持ちが晴れやかになっている。
ただトゥーリが、それを言ってくれただけのことで。
なんで、こんなにも自分に自信がなかったんだろうか。
こんなにも私は、彼に愛されていたのに。
こんなにも私は、揺るぎなく彼を愛しているのに。
それがわかったから、だから私も、笑顔でそれを返せたのだ。
『トゥーリになら、もう何も隠さずに言えると思う。もう怖がらない』
――だから、トゥーリ。おまえも安心していいんだぞ。
夢の中、彼の面影へ向かって、それを囁く。
私は、何があっても、おまえのことを想っているから――愛しているから。
だから、かつての私のように、失うことを怖がらなくていい。
いつでも私のところに帰ってきてくれ。
いつまでも待っているから―――。
きっと“終わり”は、もう間もなく訪れる。
そこに彼を巻き込んでしまったことを、少しだけ後悔したこともあったけれど。
もう振り返ることはしない。――後戻りの出来ないところまで、もう来てしまっているのだから。
私は、ただ祈るだけだ。
どうか彼が無事でありますように、と。
私の望みが叶っても……トゥーリがいてくれなければ、私はもう、生きていけないから―――。
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