【3】

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    *  季節は移り、バーディッツにも春が訪れた。  昼の日差しが緩やかに温もりを増していく毎に、人々の営みも徐々に忙しなく賑わいを増してゆく。  眠っていた畑に種が蒔かれ、それが芽吹き、やがて地面が緑に覆われてゆく。  目に映る場所すべてが作物の緑で彩られ、そろそろ初夏を迎えようかという時季に差し掛かってきた頃に、その報せはもたらされた。  カンザリア要塞島、陥落―――。  それを私は、自分の屋敷の執務室で受け取った。 「とうとう落ちたか……」  それを聞いたところで、思いのほか何の感情も湧いてこなかった。  ただ、当たり前だ、とだけ思う。  現在の我が国の軍事力では、到底ユリサナには及ばない。  そして、北側の前線も活発化していた昨今、南方だけに兵力を集中できなかったことも、その一因となったことだろう。  時間をかければかけただけ、こちらの不利となることは、最初から目に見えていたことだった。  ――それを正確に把握している者が、果たして王宮に、どれほど居ることだろうな。  正しく状況を把握し、更には、的確な指示を出せる者など……私の知る限り、前王陛下しか居なかった。  あの御方を喪った時点で、この国は、既に滅びへと向かい歩み始めていたのだ。  今や、戦乱の影響が、国中あちこちに飛び火し始めている。  前線近くでは徴兵令までが施行されており、村々から男手が消え、それがじわじわと該当地域を拡大していた。  軍備増強のための費用は、民より納められる税により賄われようとされており、突然もたらされた増税命令が人々を苦しめ、国に対する不満を募らせていた。  前線から遠く離れたここバーディッツには、兵糧とすべき穀物の供出命令が届いている。  この地方にも増税の命が下るのは、もはや時間の問題だった。
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