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あれから丸二日を、私は寝台の上で過ごした。
高熱を出して起き上がることさえ出来なかったのが一日。熱が下がっても、怠くて起き上がる気力すら失せていたのが一日。
三日目、ようやく自分から寝台の上に起き上がった私を見て、ずっと付ききりで看病してくれていたコルトが、慌ててジークを呼びにいった。
「おや、ようやく起きる気になりましたか」
相変わらずジークの表情はにこやかながら、その裏に『仕事を放っていつまで寝ているんだコノヤロウ』とでも言わんばかりの嫌味が、まざまざと聞こえてくるようだ。
働かなかった二日間で溜まっただろう仕事の量を思いウンザリしつつ、ここはとりあえず素直に謝っておく。
「迷惑をかけた、すまない」
「仕方ありませんね。今回のことは、あくまでトゥーリ様とシャルハ様、お二人の所為ですから」
言葉に棘は無いものの、言い方がにべもない。――これは相当、怒っているとみた。
「これに懲りて、もう色事はほどほどになさってください。痴情の縺れごときでいちいち倒れたりなぞされてましたら、終いには怒りますよ。アレク様が」
アレク様こそ乗り込んでこられてもお止めすることは出来ませんからね、などと言いながら、それでもてきぱきと手が動き、ジークが淹れ立ての薬草茶を差し出してくる。
それを受け取りながら、私も「違いない」と苦笑した。
アレクは全て知っている。――私の望みも、そのために私がしたことも。
そこに想いを同じくするアレクであればこそ、私に協力することも肯いてくれたが……それでも、出来ることなら止めたい、という想いは、こちらにまで伝わってきた。
もし私に何かあれば、きっと彼は、自分の感情など二の次で、私を助けようとしてくれるのだろう。
「アレクに怒られるのだけは、勘弁だな」
「でしたら、早く回復なさってくださいね」
口を付けた薬草茶の苦さに顔をしかめながら呟いた私に、相変わらずてきぱきと茶器を片付ける手を休めることなく、ジークは応える。
「今日までは目を瞑りますから、ゆっくり眠って充分に身体を休めて、明日からまたいつも以上に働いてください」
「わかった……ありがとう、ジーク」
そして空になった茶椀を返すと、それを受け取ってジークが、また代わりのように私へと差し出してきたもの。
掌に載るくらいの、四角い小さな箱だった。
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