後日談『落暉の彼方』

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       私を王宮に、再び宰相の地位にと、再三に及ぶシャルハからの招聘を拒み続けてきた罪悪感。  しかし、どんなに罪悪感に苛まれようとも、私はもう表舞台に返り咲くことなどしてはならないのだと、そう己を律した。  ――この国を滅ぼしたのは、戦争を招いて多数の死者を出したのは……この私、なのだから。  それは、私の罪だ。  それをした私が、こうしてのうのうと生き存えていることす ら、おこがましいというのに。  更には、のうのうと表舞台に立ち返るなど、絶対に許されることではない。  それこそ、犠牲になった者たちへの冒涜にしかならないではないか。  誰に断罪されずとも、罪を犯したというその事実を、私は生涯この身に背負っていくことを決めた。  もう二度とこの国の行く末には関わらず、私の所為で命を落とした者たちの冥福を祈りながら、ひっそりと息をひそめて生きていくこと。――それが己に課した、せめてもの贖罪だった。  だから、ユリサナからもたらされる恩賞についても、すべて要らないと断った。  自分がまだ伯爵位にあることすら許されることではないだろうに……当然、爵位と所領の返還も申し出てはいたが、しかしシャルハは、それだけは決して頷いてくれなかった。  ――『私の良き片腕となってくれ、レイノルド』  いつか言われた彼の言葉が脳裏を過る。  彼は、自分の片腕たり得る私を、信じて待っていてくれているのだろう。  だからこそ、何かというと私を引き立てようとしてくれる。爵位の件にしたって、いずれ表舞台に帰ってきた時に必要になるのだからそのまま持っていろと、そう言わんばかりではないか。  ――本当に彼は、昔から何も変わらない。  しかし、だからといって、彼のもたらしてくれる言葉に甘えてばかりではならなかった。  だから一つだけ、我が儘を言った。  サンガルディア監督官として王宮を離れられない彼の代わりに寄越されてきた、頑として『恩賞を受け取っていただくまでは帰れません』と言い張る使者に、仕方なくそれを告げたのだ。
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