【終章】

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       その文箱は、前国王陛下が亡くなってからそう時間を置かずして、侍従長手ずから、密やかに俺のもとへと届けられたものだった。 『陛下の最期のお言葉でございます。――自分が死んだら、決して誰にも知られぬよう、これをアレクセイ様にお渡しするように、と……』  思いもよらぬことに絶句した俺を真剣な眼差しで見つめて、彼はそれを言ったのだ。 『お亡くなりになる前の晩、突然これを託されてから、お休みになられ……それきりでございました』  ――やはり……陛下は、気付いていながら毒入りの酒を飲んだのか。  レインの言った通りだったのか、と、今さらながら止められなかったことが悔しくて、思わず唇を噛み締めた。  陛下は、自分が死ぬことを予期したからこそ、この文箱を残したのに違いない。  震える手で、侍従長から、その文箱を受け取る。  そんな俺に向かい、切ない色を含んだ声音で呟くように、侍従長は告げた。 『これこそ陛下の御遺志でございます。その御心を尊重したお計らいを、どうかなさってさしあげてくださいませ』  侍従長は、この文箱の中に託されていた陛下の想いを、既に知っていたのだろう。  紛れもなく、それは陛下の遺書だった。 「これは……!」  文箱の中身を全て改めたシャルハが、そう唸るや絶句する。  それもそうだろうさ。――俺も最初に見た時は、全く同じ反応をしたものだ。 「さすがというか、周到というか、本当にあの御方は……」  やがてシャルハが、額に手を当ててふーっと長いタメ息を吐きながら、そんな呟きを洩らした。 「こんな布石まで打っていらっしゃったとは、本当に恐れ入る」  文箱の蓋を開けると、その一番上に置かれていたのが、俺へと宛てられた手紙だった。
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