104人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
王宮内には、ありったけの衛兵が配置されている。
城壁の外を取り囲むように、ずらりと並ぶユリサナの大軍。
――血戦の火蓋が切られるのは、もう間もなくだろう。
物見櫓からその様子を眺めていた俺は、やおら踵を返した。
俺には俺で、これからやるべきことがある。
「行くぞ」
短くかけた一声で歩き出したと同時、幾つかの足音が背後に付き従ってくる。
我々の目的――それは玉座の間。
そこでは国王が、数人の側近と重臣たちに囲まれて、落ち付かなさげな様子を隠すこともなく、一段と高い位置に座っていた。
「――どこへ行っていた、アレクセイ!」
扉を開けて入ってきた俺を見るなり、苛立ちに任せて怒鳴り付けてくる。
「仮にも私を護るべき近衛騎士団の長が、この大事に何をしているのだ!」
「申し訳ありません」
そういう貴様は一国の長だろ、少しは落ちつけよ。――とは思うものの、とりあえず頭は下げておく。
「外の様子をうかがっておりました」
「おお、そうであったか……して、様子はどうだ?」
「始まるのは、もう間もなくでしょう」
言った途端に、まさに押し寄せる、というに相応しい音量の鬨の声、そして砲撃音が、建物全体を震わせるようにして、こんな王宮の奥深くにまで響き渡ってきた。
――始まったか。
それが聞こえてきたと同時、国王をはじめ、そこにいた皆が息を飲んで身を竦める。
この場で普段どおり落ち付き払っているのは、俺と、その背後に立つ部下たち数名のみ、だった。
より一層、平常心を失った王が、まるで怒鳴り散らすように、こちらへ声を投げつけてくる。
「こうしてはいられない! 私はここを出るぞ!」
――こちらも、また始まった。
もう数日前から、こればかりだ。
最初のコメントを投稿しよう!