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ユリサナ軍が王都に向かって進軍しているという報せを受けてから、もたらされるのは、我が軍が劣勢だの壊滅しただのという一報ばかり。
向かってくるユリサナ軍を止められないと覚ったと同時、国王が選択したのは、自分の身の安全の確保、だった。
一国の主が、聞いて呆れるではないか。
さすがに、それは外聞が悪いため、周囲の側近が止めては、何とかここまで王宮に踏み止まってはいたものの。
こう、まさに踏み入られる直前、という状況に直面してしまったら、それしか考えられなくなってしまったようだ。
普段よりも強固に「ここを出る!」と言い張る国王の意志は固く、また、普段なら止める側近連中も、本音は自分も逃げたいのだろう、このような事態になったからには仕方ないとばかりに、止めることもせずにいる。止めないばかりか、どのルートを通れば脱け出せるとか、どの門なら敵が居ないとか、もはや王を囲んで逃げ出す算段だ。
仕方なく、「陛下」と呼びかけ、俺は一歩、足を前に踏み出した。
「ああ、アレクセイ! 我が義弟よ!」
――甚だ不本意なことながら……俺の姉が正妃の地位にあるために、国王とは義兄弟の間柄でもある。
その所為もあってか、俺はこの春から、近衛騎士団の団長へと昇格していた。
普段ならこういうことがあるたび、なまじ王家と縁のある実家の権力が鬱陶しい、とでも思っていたところだが。
今日この時を迎えるにあたって国王に近侍できる立場を得られたのは、まさに僥倖というべきだろうか。
「近衛騎士団の長として、今こそ私を護れ! 共に来て、私をここから無事に連れ出すのだ!」
「お言葉ですが……」
しかし俺は、前に進む足を止めず、歩きながらそれを返していた。
「陛下には、ここに居ていただかないと困ります」
「なんだと……!」
「最後まで責任を果たされるのが、王たる御方の負うべき責務でございましょう?」
こちらを見やる国王の眼前まで進み出てから、ようやく俺は足を止めた。
一段高い場所から見下ろす瞳を受け止めて、睨み付けるように見つめ返す。
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