【終章】

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「何としても、この場を動かずにいていただきます」 「無礼な……!」 「無礼は承知のうえですよ、陛下」  言うと同時に、素早く腰に佩いた剣を引き抜き、すかさず切っ先を国王の喉元に突き付けた。 「なっ……!」 「――動くな!」  同時に周囲を一喝する。 「陛下を害されたくなければ、黙ってそのまま後ろに下がれ」  まずは王を取り囲む側近たちを一瞥すると、気後れしたかのように、そろそろと後退してゆく。  剣を帯びた軍部上層の者たちは、既にこちらが連れてきた有能な部下たちにより制圧されていた。――このために揃えた近衛の中でも選りすぐりの精鋭たちだ、抜かりはない。 「アクス、セルマ」  副官である腹心の側近二人を呼ぶ。 「はい」 「ただいま」  近寄ってきた彼らに王を任せ、俺は剣を下ろした。  振り返り、王と同じ位置からその場の一同を睥睨し、告げる。 「見ての通り、陛下がここに留まっていてくれることが我らの望みだ。それ以上は何も望まない。ここに居てくれさえするなら、我々が全力でお護りすると約束する。それでも抵抗する者がいれば切り捨てるまで。こちらも無駄な死人は出したくない。即刻この場から立ち去り、それぞれの持ち場に戻られるがよい」  王に刃が向けられている以上、この場の誰もが、どうすることも出来なかったとみえる。また、この場で近衛騎士の精鋭を相手にした勝算を弾きだせる頭も、少しくらいは残っていたようだ。  皆、こちらに促されるまま、素直に退散してゆく。  余計な人間が閉め出され、この閉ざされた広間に残っているのは、我々近衛騎士と国王陛下、ただそれだけとなった。 「やれやれ……下手な国王奪還計画なぞ考えてくれなければいいのだが……」  そうなったらなったで、この面々ならば持ち堪えられるだろう自信は充分あるが、ただ単に面倒くさい。  しかし、まさに敵国に王宮に攻め入られんとされている今、ここにまで余計な戦力を裂くことなどは出来ないだろうという確信はある。――この王に、そこまでの人望があるとも思えないしな。  また俺にしても、伊達にこれまで手を拱いていたわけではない。裏から手を回した軍上層部の掌握も、まさにこの時のためだけに為したことである、と言っても過言ではないのだから。
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