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「お役目ご苦労だな、カンザリアの英雄」
からかうように投げかけられたその言葉には、王の傍らに立つアクスが、とても嫌そうに顔をしかめた。
そして、まさに不承不承といった体で、近寄ってくる彼に言葉を返す。
「御無沙汰しております、――シャルハ殿下」
「トゥーリ・アクス。貴様には、色々と言いたいことはあるが……しかし、それはまた別の機会に譲るとしよう」
足を止めて、ふっと軽く笑った彼――ユリサナ軍総司令官にしてユリサナ帝国皇太子であるシャルハは。
そこで改まったように、玉座に拘束される王へと視線を投げた。
「さて、国王陛下――サンガルディア王国国王ルディウス八世」
ふいに呼びかけられて、まるで向けられた彼の視線に射竦められたかのように、びくっと一瞬だけ身体を震わせ、そのまま王が硬直する。
「この状況は、ご理解なされていらっしゃるか?」
問われた王は応えない。――応えられない、と言った方が正しいだろうか。
全身を血飛沫に彩られながら屹立する逞しいシャルハの姿は、まさに鬼神さながらの恐ろしさをもって、見るもの全てを威圧していた。
整った彼の美貌が、その表情に浮かべられた薄ら笑いが、それに更なる拍車をかけているようにも感じられる。
王だけでなく、その場に居た誰もが、その時の彼に魅入られていたに違いなかった。
言葉さえ出せずに息を飲み込み、ただ黙して彼の次の句を待っていた。
「この国は、もう終わりだ。あなたにも王位を退いていただかなくてはならない。これから生まれる新たな国に、もはやあなたは必要ない。――ついては、ご自害いただくことが最もの名誉かと思われるが、如何だろうか?」
「あ…あ、ああ……!」
唇を戦慄かせながら、王が言葉にもならない呻きを洩らす。
すぐに、唇だけでなく、全身へと震えが広がっていった。
呻きながらも、ただひとこと、言葉らしきものが吐き出される。繰り返し、それだけを。
「なぜだ……なぜだ、なぜだ、なぜ……!」
「――それが、レイノルド・サイラークの望みだからだ」
シャルハがそれを告げた途端、震える王の身体がぴたりと止まった。
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