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「レイノルド……?」
のろのろと視線をシャルハに合わせ、ぼんやりと、それを呟く。
「レイノルドが、私を殺せ、と……?」
「それは少し違うな」
言いかけられた言葉を、そうシャルハが遮る。
「あれは優しいからな。言ったのは『国王陛下に玉座から退いていただきたい』、それだけだ。決して殺せとは言わなかった。――殺してやりたいくらいの気持ちはあっただろうに……しかし貴様にとっては、その方がずっと屈辱的だろう」
言いながら細められたその瞳の色に、恐怖でも感じたか、ひゅっと国王の喉が鳴る。
「貴様の手から、この国を、滅ぼしてでも奪い取れ。――それが、レイノルドの望み」
おもむろに、すらりと自身の佩いていた剣を引き抜いた。
「そして……貴様の死を望んでいるのは、この私だ」
既に血で染められている白刃が、ゆっくりと自分の喉元へ副えられてゆく様を、王は視線すら逸らせずに凝視するしか出来ない。
「貴様がレイノルドに与えた傷を思えば、どんなに殺しても飽き足りないくらいだ」
そんな王に、更にシャルハが言葉を継いだ。
「しかし貴様は、まがりなりにも一国の王。ならば、どこまでも不本意だが、礼儀として最低限の敬意を払ってやるくらい、やぶさかではない。――さあ、好きな方を選ぶがいい。名誉ある自害か、不名誉な処刑か」
当然ながら、その答えを王が返せるわけはなかった。
「…ならば、仕方ないな」
ふいにシャルハが、王の両脇に立つアクスとセルマに向かい、「二人とも剣を引け」と命じた。
「陛下の両手の拘束を解いてさしあげよ」
そして拘束が解かれるも、王は呆然としたまま、玉座から立ち上がることも出来ずにいた。
やおらその手を取り、上に向けさせた掌に、シャルハが自分の短剣を載せる。
「陛下は我々に屈することを良しとせず、私の短剣を奪い取り、自身の名誉を護るため自害という手段を選ばれた。――そう国民には語ってやろう。なかなかの美談だろう?」
「そん…な……」
「潔く腹を決めることだ」
手に乗せられた短剣を見つめたまま、それでも王は、微動だにしない。
その上に、ふいに別の手が載せられた。――アクスの手だった。
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