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「――陛下に、伝えておくべきことがあります」
のろのろと視線を上げた王を見下ろし、殊更にアクスが、にこりと微笑んでみせる。
「サイラーク閣下が、こう仰っておりました。――陛下が閣下へと向けていらっしゃる気持ちは、ただの執着にすぎない、と」
言いながら、重ねられた彼の手が、国王の右手に短剣を握らせる。
「あなたのしていることは、お気に入りの玩具を手放したくないとダダをこねる、ただの子供の我が儘と同じなんですよ」
イイ歳して少々おいたが過ぎますね、と笑いかけるアクスの姿に、――なぜだろう、底冷えするような恐ろしさまで感じてしまった。
「行き過ぎた執着は身を滅ぼす、って言葉を知りませんか? サイラーク閣下に執着した時点で、こうなることが決まっていたんですよ」
なおも彼は言い募る。普段らしからぬ笑みを振りまきながら。
「あなたのレイノルドは、この俺が貰いました」
その言葉に王が目を瞠ったと同時、彼の片手が短剣から鞘をスラリと引き抜く。
「いい加減、あのひとへの執着は手放してもらいます。――どうせ、あの世へまでは持って行けないものですからね」
言うや否や、握り締めていた手ごと短剣を振りかざすと、そのまま躊躇いもなく王の胸へと突き立てた。
「――レイノルド……!」
過たず心の臓を刺され、込み上げてくる鮮血に喉を塞がれながらも、それでもなお、王はそれを呟いた。
「なぜだ……あんなにも君を、大事にしてあげたのに……!」
言いながら、事切れた。
所詮それは、正しき道を誤った国王の、辿るべき哀れな末路でしかありえなかった。
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