【終章】

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    *  国王の死をもって、それを公布しシャルハは戦乱を収めた。  そして、その時をもってサンガルディア王国はユリサナ帝国の属国となることが宣言された。  ユリサナに併合されるのではなく、ユリサナの監督下で、これまでの国家の形そのままを継続することが許された、ということ。  ただし、絶対王権の撤廃は免れなかった。国王は立てるも、それは形ばかりで、事実上の決裁権を有するのはユリサナ側から派遣される監督官である。  それでも、敗戦国に対し与えられるにしては、それなりに寛大な措置だとも云えただろう。  当面の間、その監督官の役目にはシャルハが就くことになった。  彼は、これまでの我が国の制度を一切変えることなく、そのまま維持してゆく方向で政務を進めた。  爵位を持つ貴族たちも、それを取り上げられることもなく現状のままの地位を許されたし、王宮に勤める者であっても、それは同様だった。  ただし、国王に近しい地位に在る重臣だけは、一部の人事粛清が行われた。  そしてシャルハは、その空いた職を埋めるべく、かつての宰相レイノルド・サイラークを王宮へ召喚しようとした。  しかし彼は、それを頑として受け入れなかった。  代わりに、彼の推薦による者を引き立て、各々政務を任せられる地位へと配置した。  そう時間を置かずして、戦争の所為で狂っていた様々なものが、もとの通りに戻されてゆく。  ただし王位だけが、いまだ空位のまま―――。  まだ戦乱の余韻が色濃く残る落ち付かぬ王宮に、ようやくシャルハを中心とした新体制の形が出来上がりつつあった頃。  俺は、あるものを持って、シャルハの執務室を訪ねた。  室内に入るや「大事な話がある」と、余人を退かせ二人きりにしてもらう。  そうしてから彼のいる執務机の前に立つと、手にしていたものを、その眼前に差し出した。  それは、書類などを入れるための文箱だった。 「――何だ、これは?」 「前国王――ルディウス七世陛下の遺書だ」
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