わたしは、だあれ?

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 会社は休みだったけれど、何の予定も入れてはいなかった。それで、自宅の自分の部屋でなんとなく、スマホをいじっていた。  もう夕暮れだ。階下の台所では、母が夕食の準備をしている気配が伝わってくる。  父はたぶん、その横にあるリビングスペースで、TVでも見ているのだろう。  LINEに見入るのも飽きてきたので、ふと、ネットで動画をさがしてみた。  私は8歳まで、W県の○○○寺というところに住んでいた。  観光地だから、時折、ニュースなんかでとりあげられる。  けれど、私の住んでいたおばあちゃんの家ーー父の実家は裏通りの奥にあって、自分で言うのもなんだけれど、ずいぶんさびれたところだった。  おばあちゃんが死んで、今住んでいるところに来てからずいぶんになる。  その間、私自身は一度もあそこには帰ってはいない。  正直に言えば、あそこは好きではなかった。  幼稚園も学校も遠かったし、親しい遊び友達もほとんどいない。遊び場もほとんどなく、女の子が幼少期を過ごす場所として、何の魅力もなかったのだ。  だからーーその動画をさがしたのは、ほんの気まぐれだった。  あんなところでも、10年以上も時間が流れれば、変わっているんだろうな。  懐かしさというよりも、ちいさな好奇心だったのだ。  ○○○寺で検索すると、かなりの数の動画がヒットした。けれども、さすがに旧い住所の裏通りが 映っているものは見当たらない。  ただ、あそこには当時。汚いけれどそれなりに大きい川があって、それが今では整備されて遊歩道になっているようだ。それに沿って、周囲を映したものはいくつもあった。ただ・・・。 「あれ?」  寺の前の門前町。なんとなく、昔の面影が残っている。こういうところは、それほど変化がないのが普通なのだろう。そこから、動画の画面は遊歩道に移ってゆく。その方向に、私が住んでいた裏通りがある。いや、あったはずなのだ。  けれども、遊歩道は長く、いっこうにそれらしい通りにはぶつからない。両側には、桜らしい緑がまぶしい並木が続く。上天気だ。人も多い。けれど、覚えがあるものは、何もーーない。    
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