わたしは、だあれ?

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 どういうことになるのだろう?  両親は、冗談や悪ふざけをしかけているようには、とても見えない。もちろん、私だってそうだ。  だったらーー私の頭のなかにある記憶は、どうなるのか。  これまで、積み重ねてきた記憶。幼い頃の経験。見聞きした事柄。会ってきた人々。  それらはみんな、私の思い込みだとでも?   ソンナ、バカナコトガ!  ほんの、ちょっとした思いつき、好奇心でスマホの動画を見ただけなのに。それで、些細な話題を父親にフッただけだというのに。  どうして、こんなことになるのだ。   これではまるで、私の頭がおかし・・・・・・・・・・・・  ・・・・・・・・・・・・くなったとでも・・・・・・・・・・・・  ・・・・・・・・・・・・  いや、違う。そんなこと、あるはずがない。きっと、きっと説明がつくはずなのだ。いや、つかなければならない。 でも。  私には祖母は一人しかいない。だから、両親が他の誰かと勘違いしているということは、ありえない。  仮にーー万が一そうだとしても、私の引っ越し体験までもが否定されるはずもない。  この直後に、目の前にいる二人が一転して、 「やあ、ひっかかったな。どうだ、ちょっとしたスリルだったろう? 迫真の演技ってやつか。私たちの演技は、ナントカ賞、受賞ものだな!」  などと、おどけてくれるのなら話は別だ。ハッピーエンドだ。  何事もなく、日常というものに戻れる。他愛のない話題が交わされる、どこにでもある夕食風景に。  戻れる・・・・・・・・・・・・ 「ねえ、ちょっと、大丈夫なの、本当に? その、どこか具合でも」  いつのまにか、持っていた箸を落として茫然としていた私の前に、母の顔が大きく迫ってくる。 「あ、あのね。私が言っている、おばあちゃんの家っていうのはね」  揺るがないものを求めて、私の喉からは悲鳴みたいな声が出る。でも、悲鳴みたいに切実なのに、うわずってうまく声にならないのだ。 「ねえ! 分かってくれるでしょう? おばあちゃんの家は、W県にある○○○寺の近くにある家のことなのよ。ほっ、他の家のことなんかじゃあなくて! 分かってくれてるよね。ねえっ」 「・・・・・・」  
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