わたしは、だあれ?

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 母の沈黙。 「な、何?」 「さっきから、急におかしなことばかり! お寺だなんて、何を言いだすの! おばあちゃんの家は隣の市じゃないの。同じ県じゃないの! しっかりして!」  またひとつ。信じてきたものがーー壊れた。  無条件に、微動だにしないと思いこんでいたものが、もろくも消去されてしまう。  そうして、わけのわからない上書きが、むぞうさに!  私をのぞきこむ母の眼が怖い。  ガラス球のような眼だ。  顔は心配を絵に描いたようだけれど、眼がーー眼が。頭のなかの冷たさが増す。かわりに部屋のなかが、ひどく暗くなってゆく。LED照明が、大昔の切れかけた蛍光灯みたいに感じられる。リビングスペースでつけっぱなしになっている、TVの音声がほとんど聞こえない。  幽かな音声は、聞いたこともないような言葉で、何かキイキイ言っている。  父が、席から立ち上がって、こちらに近づいてきた。  その眼もいつの間にか、ガラス球のようだ。 「熱ヲハカッタ方ガイイ。普通ジャアナイゾ・・・」  ちがう。  フツ―じゃあないのは、アンタたちの方だ!  そして。  怖い。  怖い。とてもーー怖い。  二人とも、見知らぬ、赤の他人のような気さえする。  宇宙人。  そんな代物と入れ替わってしまったみたいな。  姿形はそっくりだけれど、私の知っている両親とはまったく違う生き物みたいな!  私の体が、がくん、がくんと動く。  母が、私の肩をつかんで揺さぶっているのだ。  痛い。やめて。痛い。やめて。やめて。やめて!  声が。  遠くから声が聞こえる。私を呼んでいる? 「ねえ! 本当に、どうかしちゃったの? 黙ってないで答えなさい! ねえ、とも子! とも子ったら!」      
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