わたしは、だあれ?

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 とも子。  何、それ。名前? 誰の?   ひょっとして、私のーー私の名前?  ちがう。『それ』は少なくとも、『ワタシ』の名前じゃあ、ない。名前なんかじゃあ。  その時、『ワタシ』は気がついた。  目の前にいる『両親』の、それぞれの名前。  それぞれの生年月日。  それぞれの趣味や特技や好物や、その他、もろもろのことごと。  『家族』なら知っていて当たり前のことごとを、確かな記憶として思いだせない。母は、そう、主婦・・・かもしれない。でも、そうじゃあないかも。根拠が、何にもない。  父・・・と思っていた、この人は教師?  どうして、そんな風に思ったのだろう? 思いこんでいたのだろう?  いつも、教師口調でしゃべるから? でも、その『いつも』のことが思い出せない。いつ、そんな口調でしゃべっていたものか。  ワカラナイ。  ココ二イル人ハ、誰ナノカ。『ワタシ』二トッテ、何ナノカ。  それどころか。  今、自分がいる家の住所も、電話番号も分からない。分からないのだ。ワカラナイ!  傍らにあるーーさっきまでいじっていたはずの、スマホのロック解除のパスワードすら。  それから、『ワタシ』が勤めているはずの会社のことも。  今日は仕事は休みーーそうだったはずだ。  それなら、私の仕事とは、どんなものだった? 会社ーーならば、それはどこにある? ビルは自社ビルだったか。どうなのだ。何という業種の、どんな名前の企業?  そうして『ワタシ』は、どんな職務を毎日、つとめていたというのだ。  オフィスは何階の、なんという部署でーー仕事の内容は? さあ、言ってみろ。答えてみろ!  それも・・・・・・どこかに消え失せた。  いや・・・・・・もしかしたら。  ・・・・・・・・・・・・もしかしたら。  最初から『なかった』のだろうか。  
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