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「そうなんだ? 何か用でも、あった?」
「用、って訳じゃないんだけど、会いたかったから」
抱え直そうとしたファイルが手から擦り抜けて、音を立てて落ちる。
弾みでファイリングが解けて、床一面に紙が舞った。
「あっ、ごめ……」
慌てて屈むと、陽も屈む。
陽があんな事言うから、心臓がドクドクうるさくて、紙を集める手が震えてしまう。
「大分前にもこんな事あったよね? あの時は、もっと盛大だったけど」
陽が小さく笑って、その時の事を思い出して、強張っていた頬が少し緩んだ。
「……うん。そうだね」
入社してすぐぐらい。
わたしは陽と、挨拶以外の会話をここで初めて交わした。
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