last.scene

9/17
109人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 エントランスを抜けて、一歩外に出たら、風が頬をふわりと撫でた。  雨の匂いがする。  そう思った次の瞬間、水滴が頬を濡らした。  寒くて寒くて、どうしようもなかったあの夜とは違う雨。  やわらかい、雨。  街並みが、ゆっくりと滲んでいく。  灰色になった街に、色んな色が溢れていく。  雨の色。  雨の音。  雨の匂い。  雨の日、いつもあの夜を思い出す。  決して良い思い出なんかじゃないけど、いつも陽の笑顔を思い出す。  会いたい気持ちが、もっと加速しはじめた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!