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「絢、来月どこかで、春樹くんとうちにご飯でも来ない?」
ママからそう誘われたのは、初めての結婚記念日をどんなふうに過ごすか、春樹と二人でいろんなプランを考えていた頃だった。
「結婚記念日はもちろん二人で祝うだろうから当日じゃなくていいんだけど。ママ達から、話したいこともあるし」
「え、なにー?じゃあ、春樹と相談してみるね」
そう、軽く言って電話を切った。
そうして実家に行ったのは、結婚記念日の翌週の日曜のことだった。
「そういえば、話ってなぁに?ママ。まさか妹か弟ができるとか?」
笑ってママに尋ねる。もちろん冗談だけど、パパとママならありえるかも、と心のどこかで思いながら。
だけどママが、思いの外真剣な表情をする。
「えっ…ほんとに?」
思わず身を乗り出して聞き返す。
ママはまっすぐ私を見た。いつもの、優しい顔で。
「ううん、その逆」
「え?」
「パパとママね、離婚することにしたの」
頭が真っ白になって、そのあとのことはよく覚えていない。
私が結婚して、恋人に戻ってからの1年で何かあったのかと思ったけれど、そうではないらしい。
後になって、春樹がきちんとママの話を私に教えてくれた。
パパとママの間には、もう何年か前から、少しずつヒビが入っていたこと。
もう限界かなと思っていた時に私の結婚が決まって、せめて一人娘の結婚式まではと離婚を延ばしていたこと。
結婚式で「パパとママみたいな夫婦になりたい」と私に言われて、その後すぐには別れられなくなったこと。
喪が明けるみたいに1年目の結婚記念日まで待ってくれたこと。
だけどやっぱり夫婦にも恋人にも戻れなくて、離婚すること。
春樹からその話を聞きながら、私はずっと泣いていた。
大好きなパパとママが離婚することも悲しかったけど、もっと感じていたのは絶望だった。
「パパとママみたいな夫婦になりたい」
そう、本当に思っていたのに。目指していた理想が消えて、足元ががらがらと崩れ落ちたような気がして。
私はこれから、どうやって春樹と暮らしていったらいいんだろう。
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