五、連続殺人事件(1ー始まり)

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五、連続殺人事件(1ー始まり)

 あれから十年近くの歳月が経った。  私は無事、刑事になり、様々な辛い思いもしたし、逆にいくつかの大きな事件を解決へと導きもし、キャリアを積んでいった。  また私生活の面でも変化があった。信頼する、大先輩にあたる方の娘さんを嫁にもらい、子供もできた。そして私は実の子にK子と、偶然にもあの山崎K子と同じ名前を付けていたのだが、それでも彼女のことは思い出さず、久しく忘れていた。  私は幸福な人生を送っていた。守るべきものがあり、果たすべき使命があった。  奇妙な連続殺人事件が世間を騒がせるようになったのは、そんな頃だった。  捜査本部が設置され、私もその一員として加わった時にはもう、少なくとも三人の被害者が出ていた。どれも若い女性で、殺され方や遺体の遺棄された場所に一貫性はなかったが、一つの特徴が三人の被害者を結びつけていた。彼女たちの手の平には共通して切り傷があったのだ。  傷の数や深さ、角度はそれぞれだった。それが犯人からの何らかのメッセージなのか、それともある種、快楽的なものなのかはその時点では誰も断定できなかったが、これからも被害者が増えていく可能性が高いというのが粗方の見解で、早急な対応が求められていた。  その時点で分かっていることがいくつかあった。    被害者の遺体からは三人とも、睡眠薬の成分が検出され、一人は渋谷で、あと二人は横浜の中華街で足どりが途絶えていた。被害者が抵抗した形跡がないことから、睡眠薬で眠らされたまま、殺害されたと考えるのが妥当だろう。  また性的暴行を受けた痕跡はなく、となると、手口からも犯人は女性かもしれないというプロファイリング結果もあり、三人の被害者の交友関係が徹底的に洗われたが、特に共通の知人などは浮かんでこなかった。  調べるべきことは山のようにあったが、すでにどこか行き詰まり感があるのも拭えなかった。私は資料整理などのデスクワークに疲れ、やはり足を動かさなくてはいけないと思い、横浜の元町中華街での聞き込み調査を始めた。
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