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そんなことを夕方までベンチを移動しながら延々と繰り返した。
ご婦人たちは広い公園内に独自の散歩ルーとを築いているらしく、連れ立ってくる時の彼女たちの会話から、これは旦那の派閥とそっくり同じに派閥を組んだ彼女たちの穏便な対処法なのだということは簡単に察することが出来た。
呼び合う名字は聞き覚えのあるものばかり、明らかに政治家の奥様である彼女たちを目の前に、秋本の容姿を駆使した同情売りは好調に終わった。
「おう、お疲れ。大智、お前臨機応変に話し合わすの上手いじゃん。使えるな」
「・・・・・・ありがとうございます。それで? あのやんごとなき奥様たちが通る道は予め調べあげていましたよね? こんな他愛の無い話をしてどうするのですか?」
「お前さ、途中から感覚で俺に同情が集まるようにしてくれたろ。あれ、完璧。今回の目的は顔を覚えてもらうことなんだ。テレビの報道なんか見ているとさ、記者は相手の事情に構わずに真夜中に押し掛けたりするじゃない? 特にすっぱ抜くときは。だけど、あれやるには記者と本人との信頼関係があるっていう前提条件があってさ。まあ、小石レベルほ情報交換から始めて仲良しになっていくのさ。そんな地道な物々交換の果てがデカイ花火」
ここまで淀みなく言って、栄養ドリンクを鞄から取り出して喉を潤している。
黄色い液剤の逃げた口端をなめあげると、またじろりと僕を視線の強さで黙らせる。
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