第一章 秋本涼二という人間

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「例えば俺が大物と意気投合して家に上がれたとするだろ。政治家はむやみに離婚しないから、仮面夫婦だったとしても奥様とも会話をするひとが比較的に多い。すると、茶が出てきたときに俺と奥様はいい感じに再会して打ち解ける訳。弟のその後の話になっちゃったりしてね。で、俺の帰宅後奥様は俺の獲物に出会いの経緯を話す。ブランドウェアを着ていて兄弟仲が良くて顔も良い、きっと弁えているひとよ、と。頭の切れる獲物たちは即座に俺が中堅家庭出身の向上心の強い若者だ、と推測して自分を脅かすことのない面白いやつを見つけた、と気持ち良くなる。これで一気に家族ぐるみで信頼関係が築けるきっかけになったりして。依頼なんか受けて上手く打ち上がったら、空から金が降ってきたりして」 にやにやといやらしく笑む秋本を見て、確かにこういう種まきをするのに一人では怪しまれることもありそうだと、勤務内容に納得した。 深く頷いている僕を一瞥して、秋本はタオルで顔を乱雑に拭いながら呟いた。
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