第一章 秋本涼二という人間

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*********************** 何も言い返せずに切られた携帯電話の着信履歴を埋めるのは、三十路の変人、秋本涼二だ。 彼は時折特大の花火を打ち上げる、その界隈では有名な記者である。 記事にも発展できないような、小さな情報などはポケットに詰め込めるだけ詰め込んでおき、祭りを誘導したい相手に向かってしつこく小石を投げつけ続ける。 それが弾丸でないことが相手を緩ませ、また情報の正確さにいつの間にか敵を信頼してしまう、そういった心理を利用して情報の売り買いをする様は記者と言うより、情報屋といった風情である。 なぜ大学二年生の僕がこんな怪しげな記者と頻繁に連絡を取り合うようになったかというと、それは些細なきっかけによるものであった。 半年前、僕がまずまず好調に居酒屋チェーンてんあでアルバイトをしていた頃、店で酔いつぶれたどころか、居座り始めてしまったのがこの秋本だ。 その日の遅番には僕と、フリーターの女性、気弱な男性社員の三名しかおらず、爽やかな若手サラリーマンという風貌のそのひとに、男性社員は閉店時間だという旨をやんわりと知らせに行ったはずだった。 けれど、彼は二分もしないうちに血の気の失せた顔で、僕の待機する厨房へと逃げ帰ってきた。
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