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「意外と早く終わりましたね」
「違う。おれには到底無理だよ。西野君が行ってくれ。君なら出来る」
「ただの酔っ払いのどこが無理?」
「目が、目が」
「とりあえず行ってきますね」
件の座敷に入った途端、男性社員の言った意味はすぐに理解できた。
膝の上に頬杖をついて俯いていたそのひとが僕を見上げる視線があまりにも強く、肌に焼け付くように痛いのだ。
整った顔立ちの中、酒に仄赤く濁った眼が爛々と底光りしている。
僕は焦って、彼が話し始める前に話しかけねばと必死になったが、その試みは無惨に散った。
「さっきとは違う子だ。年齢は二十歳前後、大学生だろうか。彼女は今いない。サークルは囲碁。人差し指の爪が光っているね。なんだか満足していないという面。でも度胸はある。一生の仕事というものに真剣に取り組もうとしている、まめまめしい馬鹿野郎だな」
口を挟む暇もなく、そのひとは行きも継がずに言った。
その間どろりとした白目は忙しく動き回り、とても気味が悪かった。
しかし、本来なら警察を呼んでも構わない雰囲気であったのに、その時の僕は多分酷く苛立っていて、見も知らぬそのひとに反撃をぶちまけてしまったのだ。
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