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「店にとっての迷惑客。酔っ払いの厄介なひとです。観察眼に優れ、頭の回転が速いのは分かりましたけど、そういうお人がホームズの物真似なんか好みますかね。何より、あなたの分析は正確でしたけど、人間、自分で自覚していることを改めて他人に言われたくなんかありません。あなたは想像力に欠けるひとだ。これくらいの分析、僕にもできます」
フリーターの同僚は暴力でも起こるのではないかと衝立の向こうで固定電話の子機を握りしめていた。
張り詰めた数瞬の後。
酔っ払いの彼は愉快だ、愉快だと大口を開けて笑いだした。
茫然としている僕に顔を寄せると、彼の瞳はいつの間にか清涼感を覚えるほどに遠く冴え渡り、僕は騙されていたのだと知って更に顔をしかめるしかなかった。
「いいもの、見つけた。そのうちに連絡するからな」
あの夜の囁きは、妙な明るさに満ちており、人生で初めて僕の全身を粟立たせたと言っても過言ではない。
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