第一章 秋本涼二という人間

6/12
前へ
/21ページ
次へ
その次の日、携帯電話に非通知設定で電話がかかってきた。 しかし、嫌な予感がした僕はもちろん三回目の着信を受けても受話せず、実家暮らしの固定電話 母に注意して警戒していたが、そちらは流石に黙り込んでいた。 アルバイトは三日続けて休みの予定だったので、僕はここぞとばかり家を出るぎりぎりまで眠って嫌なことを忘れることにした。 しかし、三日ぶりに出勤して間もなくのことだ。大学から居酒屋へ直行し、頭にタオルを巻いてジョッキを両手に厨房へ戻ってきたところで、店長が困った顔で僕を呼んだ。 「西野、お兄さんから電話がきている。とにかく出てくれ。バイトを辞めさせるとかなんとか言っているが・・・・・・」 「そんなはずないんですけど。すみません」 僕に兄がいるのは本当で、彼は高校卒業後、親戚の切り盛りする日本料理屋で修行を積んでいるところである。 三歳差で仲は良いが、家を出てからは忙しそうなので、あまり連絡を取り合ってはいなかった。 しかし、元来無口で穏やかな兄が僕に話を通さずにアルバイト先へ連絡してくるはずがないのだ。 兄を信頼している僕は自宅で何かあったのだろうかと心配になり、店長から素直に受話器を受け取ったのだが、それがいけなかった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加