第一章 秋本涼二という人間

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「今、S町の喫茶テンにいる。逃げても無駄だぞ、色々調べたから。じゃあな」 返事を待たずに電話を切ってしまう横暴さには慣れてしまったが、その後携帯電話をいじって横で待っていた店長が顔色を変えて契約終了を告げてきたことには驚いた。 今になって思うに、きっと、彼は秋本から怪文書的なメールを受信したに違いない。 それから今に至るまでに分かったことは、秋本が横暴であることと、正真正銘の記者であること、当初思っていたよりはまともな社会人であるということだった。 そしてアルバイトの内容は秋本の太鼓持ち、時給がべらぼうに高いので勉強に忙しい理学部生としては逃す手はなかった。 ただし、続かなくとも僕以外の誰でも代わることができるだろうという気楽さで始めたこの使い走りが案外秋本にとっては大事な要素だと知って、面倒な要求に文句や弱音を吐きながらも、丸一年真面目にボスに従ってきたという次第である。 秋本が扱う分野は主に政治にまつわる事象とその周辺人物である。
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