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先に述べた小石というもののを共に拾わされるのが主な僕の役割で、その内容は多岐にわたった。
初めての勤務内容は高級住宅街の真ん中にある緑豊かな公園で、有名スポーツブランドのランニングはウェアを着こんだ秋本と共に、日がな一日ベンチに座り続けるという仕事だった。
それら高級住宅の一つ一つには、警備会社のシールが貼られ、万全のセキュリティの内に暮らすべき人々の存在を証明している。
その時秋本は冗談めかして数人の芸能人の詳しい所在を僕の耳元で囁いたけれど、それ以上ははぐらかしてなにも教えてはくれなかった。
手のかかりそうな大型犬や、耳飾りをつけた小型犬を連れて散歩するご婦人は、いかにも疲れきったという様子の秋本と僕の組み合わせを見て、興味津々に話しかけてきたりする。
「あら、ご兄弟でランニング? こんな早朝から精が出るわねえ」
「現役でスポーツをしている弟が、今なら兄貴に勝てる気がするってしつこいもので」
「まあ、仲が良いのね。それで結果は?」
「僕の圧勝ですよ!」
霧吹きで汗を装った秋本の隣で僕は殊更元気に答える。
僕の安い軽装とのギャップが出世した兄と学生の弟という設定に説得力を与えるらしく、大抵のご婦人は秋本に好意的な同情を示しつつ、上品に立ち去っていく。
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