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「人は花と違い、気の持ち方次第で一瞬で変われる。これは人間に備わった優れた能力だと言うべきだろう。しかし、その能力のおかげで人の世は常に一定しない。古来、人は尽きることなく戦いを重ねているというのに、いつまでたってもそれが終わることがないのは、移ろいやすい人の心のせいなのだ。人類は、自らを急激に進化させようとするあまり、自滅しかけている」
また、彼はこんなことも言った。
「あるいはすべての人に共通する絶対的な正しさの観念が存在すれば、誰もがそれに基づいて行動するだろう。しかし、残念ながらそのようなものは存在しない。仁や義の観念はそれ自体素晴らしいものだが、個人によって解釈が異なる。残念ながら不完全なものと言わざるを得ない」
彼は頭の良い男だったので、儒家思想に陶酔している私の好みそうな話題を提供しようとしたのかもしれない。しかし、このときの彼は心ない者の讒言によって高祖の不興を買い、首都に軟禁されている状態であった。頭の回転がやや鈍かった当時の私は、彼が単に自身の不遇に対して愚痴を述べているものだと捉えた。
「悔い改めて、皇帝への臣従を誓うことです。一から出直すつもりで……」
このとき私が発した返答が、これであった。
今にして思うと、我ながら実に頓珍漢なことを言ったものだ。その後の彼が迎えた運命に思いを馳せると、私の発したひと言は、彼の自尊心を大きく傷つけるものであったに違いない。私は、悩める彼を救うことができなかったことを、今でも深く悔やんでいる。
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