私設労働基準監督事務所.(ピリオド)

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 数か月前から潜入したのだが、今の所月に一度程休みが取れるので、大阪に帰って来て例のおっちゃんの店兼事務所で報告をしながら飲んでいる。  時田美穂子は、いつもの様に奥の厨房から出て来ない。仕事の話は相変わらず嫌いな様で、奥で雰囲気が変わるまで様子を見ている。代わりに、妹の沙希がカウンターの中で飲み物を作ってくれる。いつもの様に穏やかに微笑んでいて、話を聞いているのか聞いていないのかわからないが、ずっと愛想よく立っている。心得たもので、おっちゃんが酔って来ると何時の間にか水割りが薄くなっている。それも、絶妙に酔い加減を見ながら薄くするから、おっちゃんは気づかずに飲んでいる。 「もう、仕事の話は終わりにして、カラオケでも入れよか。」 おっちゃんがそう言うと、姉が奥からマイクを持って出て来て妹と代わった。それから、明け方までその日は歌いながら飲んだ。寝始めたおっちゃんを見ながら、姉妹と僕はカラオケの点数を競う事に夢中になって行った。    姉はプロの歌手並みの点数を出していたが、おっちゃんの世代に合わせた歌で、随分と懐メロが多かった。僕にはそれよりも妹が歌うKOKIAや柴田淳の方が聴きやすかった。彼女が歌うので覚えたが、本人たちの歌っているオリジナルは聴いた事が無い。メロディが本当に合っているのかどうかはわからなかったが、彼女の声は優しくて、それを聴きながら何時の間にか眠りに就くのが心地よかった。
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