都立第一大学広告研究会の陰謀

10/19
前へ
/19ページ
次へ
   私がもじもじしていると、田島くんはパッと私の手を掴んだ。 「スタート!」  その声とともに、私は反射的に演技を始めた。  彼より先行して走り、購買の階段を駆け上がる。  ……右の掌が熱い。  駄目だ、演技に集中しなくては。  振り返って、ほら、今だ。 「ホラ、ハヤク、アンパン!」 「カット!」    購買に怒号が響いた。  気が付くと、その場に居合わせた生徒が全員こちらを見つめている。死にたい。  田島くんは持ち前のKYっぷりを披露するかの如く、その場の空気を少しも意に介さずに文句を言っている。 「なんで片言なんだ。あと、アンパンじゃなくて焼きそばパンだ」 「もう……どっちでもよくない? 私アンパンの方が好きだし」 「俺は焼きそばパン派だ」  どうでもいい。テイク2だ。  しかし、手を掴まれるとどうにもこうにもうまくいかない。  結局、真っ白な頭であらゆるパンの名前を発しながら、テイク30で撮影を終えた。  
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加