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私がもじもじしていると、田島くんはパッと私の手を掴んだ。
「スタート!」
その声とともに、私は反射的に演技を始めた。
彼より先行して走り、購買の階段を駆け上がる。
……右の掌が熱い。
駄目だ、演技に集中しなくては。
振り返って、ほら、今だ。
「ホラ、ハヤク、アンパン!」
「カット!」
購買に怒号が響いた。
気が付くと、その場に居合わせた生徒が全員こちらを見つめている。死にたい。
田島くんは持ち前のKYっぷりを披露するかの如く、その場の空気を少しも意に介さずに文句を言っている。
「なんで片言なんだ。あと、アンパンじゃなくて焼きそばパンだ」
「もう……どっちでもよくない? 私アンパンの方が好きだし」
「俺は焼きそばパン派だ」
どうでもいい。テイク2だ。
しかし、手を掴まれるとどうにもこうにもうまくいかない。
結局、真っ白な頭であらゆるパンの名前を発しながら、テイク30で撮影を終えた。
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