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したがって、その間に体内の血液はほぼ流れきっている。そのせいなのだろう。
彼女の体を浸した今は冷え切った水は、例えるなら出したての紅茶のようだったと。濃い茶色の形を為さない渦のようなものが染み出し、水中でゆらゆら揺れていたと。
喫茶店にて彼がこの話をしてくれた時、飲んでいたのはブラックコーヒーだった。
あれから紅茶はもちろん、コーヒーにフレッシュを入れた際の渦のような揺らぎですらも、あの見開かれた女の目を思い出して吐き気を催すそうだ。
とは言え俺はそんなことなどつゆ知らず、熱いレモンティーを頼んでしまっていた。
(しまった!俺もコーヒーにすべきだったか)と、後悔してももう遅い。
レモンを絞り砂糖を入れて、かき混ぜていた紅茶に、彼の話が終わった直後だった。スプーンの先から濃い液体が、雫となって滴り落ちたのだ。
俺たちの目の前で、みるみるカップ中に拡がってゆく茶褐色の染み。
「お前、憑かれてるぞ」
[了]
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