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「神原、何してんの?」
あからさまにテンションの下がった神原が、俺にスマホを向けてくる。
「バッタの動画を見て爆笑するオレの動画を見てる君を撮影中」
となると、スマホをこの辺まで持ってきて、俺はもう少し斜めの体勢で、画面も映るようにした方がいいな。俺は微調整を加えてから動画を再生する。
その甲斐あり、何ともアーティスティックな作品が完成した。上出来な動画に目を輝かせた神原が、ぽそりと呟く。
「……これ、永久保存だね」
「こんなしょーもない事に『永久』なんて、仰々しい言葉を使わんでくれ」
「永久に、君の弱みを握った。顔がはっきり映ってるじゃないか。オレの気分次第でSNSで拡散する」
神原が「さあ、オレのご機嫌を取った方がいいよ」と、両手を広げて鼻を高くする。神原の情報モラルは、かなり基本に忠実だ。ネット上で自分の顔を晒すのは、芸能人か犯罪者だけだと思っている。今の高校生や中学生の現状を見せつけたら、卒倒するに違いない。
「拡散されて困るのは、神原の方じゃないか?」
俺は、引導を渡すように言い放つ。神原の顔から、血の気が引いていく。ついには両膝が地に着いた。
「オレ……なんでバッタなんかであんなに笑ったのか……」
「ウソだよ。個人的に楽しもうな」
神原は立ち上がり、俺の両手を握ってぶんぶんと振る。大袈裟な奴だ。
「オレ、缶コーヒーを君に奢るよ」
そう遠くない未来に、今日撮った動画を見て、俺達は二人でくすりと笑うだろうか。
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