登校の日。

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「俺もそのくらいだったからな。」 「…やっぱり…。」 「楽しいもんだぞ?」 「……。」 ……楽しいかもしれないけど…成績…。 「私の頭じゃ…。」 「…お前…テスト受けたか?」 「? はい。」 「まぁ、それの順位でも見て自信持て。」 「はぁ…。」 ……でも…確かに結構できたな…。 「今は佳奈とつくしといろ。他は…欲しいって思ったら作ればいい。」 そう言って響さんは私の顔を見つめた。 優しく笑う響さんに、釣られて私も笑った。 「たくさん遊びます。」 「そうか。」 私はこれからのことが楽しみで、ニヤケが止まらなかった。 すると、ふと冷たい空気を感じた。 ……何だろう…。 チラリと響さんを見て、私は固まった。 「…響さん?」 さっきまでの優しい笑顔は何処に行ったのか、いや、全て何処かに行ったのではないだろう。 簡潔に言う。 目だけ笑ってない。 ……な…何故…。 「椿。」 「…はい。」 響さんが抱きしめていた腕を離し、肩を掴んだ。 「話に一区切りついたことだし、言うぞ。」 「な、何をですか?」 「何故髪が解けていてメガネしてない。」 「……。」 ……あぁぁぁぁ。 よく考えてみればそうだ。 響さんが見過ごすわけない。 ……指摘しないからいいのかと思ったのに…。 考えが甘かったらしい。 「帰ったらちゃんと聞くからな。」 「……。」 「返事。」 「はい…はっ!」 「帰るぞ。」 「ま、待ってください!」 私の叫びも虚しく、響さんは車を出してしまった。 …かなりのスピードで。 ****** 「着いたな。」 「捕まりませんよね?」 「平気だろ。」 ……いやいやいや…。 捕まってもおかしくないスピードでしたよ。 ホントに。 車から降りて、私よりも少し早く降りていた響さんに駆け寄る。 ……響さん…そのうち本当に捕まりそう…。 そんなことを考えていると、響さんに腰を引かれた。 「?」 「椿。」 「はい。」 「おかえり。」 「……。」 多分、私はかなり間抜けな顔をしていると思う。 気づけば涙がボロボロと溢れ出ていた。 今まで、学校から帰ってきておかえりなんて言われたことはない。 「…何か言うことは?」 響さんが私を抱きしめる。 私は響さんの胸に顔をうずめながら、言った。 「ただいま。」 あの家とは何もかも違う。 改めてそう思った。
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