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「その、邪魔しちゃ悪いですし…そろそろ行きますね。」
「そうですか…。」
「そういえば…。」
「?」
「先輩達…松野先輩に謝りたいって言ってた人がいたのでもしかしたらその人達も行くかもしれません。」
「…わかりました。」
「じゃあ、失礼します。」
そう言って彼女達が立ち去ろうとした時、私は慌てて一人の子の制服の袖を引っ張った。
「ど、どうしました?」
「あの、あなた達が作ったシフォンケーキ、すっごく美味しかったです。」
「え?」
「一回だけ、プレゼントしてくれたでしょう?」
私の言葉に、彼女達はしばらく考えるような素振りを見せてから、思い出したかのようにお互い目で確認していた。
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうな表情に、自然と私の頬も緩んだ。
「こちらこそありがとうございました。」
私がそう言うと、女子高校生達は会釈をしながら、私達の前から去っていった。
……嬉しいな…。
きっと、私は坂城にいたままじゃわからなかっただろう。
私をちゃんと慕ってくれている後輩がいることに…。
けど、今思えばわかろうとすればわかっていたかもしれない。
一度、お世話になっている先輩に向けて、料理部の後輩達がお菓子を作ることになった。
あの子達は、私がいじめられているにも関わらず渡してくれた。
綺麗にラッピングされたシフォンケーキ。
私はあの家の人達にバレないよう下校途中にある公園で食べた。
……いい思い出だな。
「良かったね。」
「へ?」
つくしさんがポテトを摘みながら、私を見つめた。
「ちゃんと椿のこと、見ててくれた人がいて良かったね。」
そう言ってつくしさんはポテトが入っている箱を持ち上げ、残った小さいポテト達を口に入れた。
「はい!」
私はそう言われたのが嬉しくて、思わずにやけながら返事した。
すると
「で。」
佳奈さんがハンバーガーを食べながら私を見つめた。
「どうすんの?」
「?」
「さっき話に出た人達が霧ヶ峰に来たら。」
「あ…。」
「それは私も思った。」
「…どうしましょう。」
あの家の人達は完全に逃げるけど…謝罪しに来る人は…。
「う~ん。」
「椿は謝ってほしいの?」
「いえ…別に…。」
多分、謝りに来るのは小さい頃姉に騙された元私の友達だろう。
正直、もう個人的に友達にはなれない。
だから、今更謝られても困る。
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