二人とお出掛け

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「あ、でも!メガネを掛けてる私には気づかないのでは!」 「…うーん。」 「よく見たら…バレるんじゃない?」 佳奈さんとつくしさんが腕を組んで、眉間にシワを寄せ唸る。 「苗字も違いますし…。」 「でも、転校生として聞かれたらすぐバレるよ。それに名前は椿のままだし…。」 「……。」 つくしさんの言う通りだ。 霧ヶ峰に二学期から転校してきのは私しかいない。 例え苗字が違くても、名前でわかるだろう。 ……本当にどうしよう…。 「ねぇ、椿。」 私の頭の中がごちゃごちゃになり始めた時、佳奈さんの凛とした声が聞こえてきた。 「椿は本当にどうしたいの?」 「えっと…。」 「私達は椿の友達なんだから…頼っていいんだよ…。」 「っ!」 「椿が会いたくないっていうならそもそも会わせない。」 「……。」 「椿が話したいならそれはそれで協力する。」 「……。」 「椿はどうしたい?」 「……。」 佳奈さんに言われたことに、私は戸惑ってしまった。 それはどうしたいのかが決まってないからとかじゃない。 ただ、嬉しくて堪らない。 そんなこと思ってる状況じゃないのに、私は嬉しくて泣きそうだった。 ……そうだ…友達は…。 私には佳奈さんやつくしさんみたいに、心の底から友達と呼べる人はいなかった。 だから当然、佳奈さんが言ったようなことを言ってくれた人なんていない。 「…私…。」 忘れてしまっていた。 友達は頼ってもいいんだと。 「会いたくない…です…正直…怖いです。」 友達にはもうなれないから。 謝罪の言葉なんていらないから。 もう私の前に現れないで欲しい。 私はもう、忘れたい。 「…過去と向き合うのは大切かもしれません。けど、私にはそんな強さありません…。」 「じゃあ、どうする?」 佳奈さんがテーブルに肘をつき、前のめりになって、私に顔を近づけた。 私は佳奈さんの目を見つめて、伝えた。 「私を、坂城の生徒と会わないようにしてください。」 「…わかった。」 佳奈さんが体勢を元に戻し、私から離れた。 「取り敢えず…今のところは来てないけど…そろそろやばそうね。」 「いたら裏門から帰る?」 「そしたらそのうち二手に分かれるし…。」 佳奈さんとつくしさんが交互に言い合って話を進めていく。 それが私のためだと思うと、また泣きそうになった。
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