163人が本棚に入れています
本棚に追加
「高瀬さん」
得意先に向かおうと席を立ったところで、名前を呼ばれた。
振り返ると、1メートル先にいる彼女は、一歩俺に近付いて、クリアファイルを差し出した。
「これ、頼まれてた書類です」
「あ、ありがと」
「いえ」
彼女は小さく頭を下げて、踵を返す。
その時、胸くらいまである茶色の長い髪が揺れて、花みたいな匂いが微かに鼻を掠めた。
彼女の名前は、佐々木美亜。
今年の4月に、事務として入ってきた新入社員の一人。
“高嶺の花”。
彼女のことをそう呼んでいたのは、誰だったか。
人形みたいに整った顔。
女子社員の間で、可愛いと評判の制服が包んでいるのは、すらっとした華奢な身体。
最初のコメントを投稿しよう!