161人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
まだ寒さの残る春の深夜。
週末だけど、大雨のせいで人の少ない繁華街。
ただ雨の音だけがする街で、ぽつんと立っていた彼女。
この時も、たぶん警笛は鳴っていた。
だけど、足は勝手に彼女の元へ向かった。
「風邪、ひいちゃうよ?」
軽く聞こえるように意識して、声を掛けた。
声が少し掠れてしまったような気がしたけど、雨の音が消してくれた。
強く雨の当たるビニール傘の下、彼女がゆっくりと顔を上げた。
胸が静かに、だけど、強く波打った。
ちゃんと彼女の顔を見るのは、久しぶりだった。
あの資料室の時以来で、もう二年も経っていた。
今にも泣きそうに歪められた顔に息を飲んだ時、彼女はゆっくりと口を開いた。
「高瀬さん、寒くて死にそうなんで、あっためて下さい」
最初のコメントを投稿しよう!