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手
修学旅行の夜、しんと冷えた寝室で私は人知れず金縛りに遭っていた。
班の皆んなと寝る直前まで怖い話で盛り上がっていたのがよくなかったようだ。声も出ないし誰も気づいてはくれない。頑張ってみたけれど起き上がる事は無理そうだ。
けど私は諦めていなかった。何故なら私の話に怖がった皆んなが全員で手を繋いで寝ることに決めたからだ。
先に寝てしまった子以外の全員が隣り合う子と手を繋ぐ形で寝落ちしていったから、私はかろうじて動く手で両サイドの友達に必死になって金縛りに遭ってることを伝えた。
しかし、なかなか気づいてはもらえない。力の抜けた手の感触が返ってくるだけだ。徐々に部屋全体の暗闇が湿度を増して空気が重たくのし掛かってくるような圧迫感を感じた。そして何かが近づいてくるような気配を感じた。
これは嫌な予兆だと、直感が叫んでいる。
瞼もかろうじて動かすことができた。薄っすらと目を開けて暗闇を見る。
すると眼鏡をかけていないのにはっきりと無数の手、手、手。手だけが空中に浮かんで手招きをしているのが視える。手は顔に向かってどんどん近づいてくる。目を閉じても視える。このままだと触れてしまう…。
私はぐっと目を閉じてお経を頭の中で唱えた。
すると四方八方から様々な声で、
「意味ないよ」
「あははは」
「おーい」
「目の前にいるよ」
「きゃきゃきゃ」
と、生きている人間の声とは違う質感の声が嘲笑うように、耳元や天井や目の前にから呼びかけてくる。
気付いた時には朝で、どうやら気絶したまま寝たようだった。
ただの夢とは思えず、手を繋いでいた両サイドの友達を八つ当たりするように責めた。
何故あんなに強く手を握ったのに起きてくれなかったのか?と。
「先に寝たから最初から誰とも手を繋いでないよ」
「寒くて布団に手を入れて寝ちゃったよ」
一体、私は誰の手を握っていたのだろうか。
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