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首
亡き祖父が語った台風の夜。
激しい台風の夜だった、まだ復興が始まった ばかりの川沿いはトタン屋根の家ばかり並んでいてそれはずっと先の農連市場まで続いている。
熱帯夜でもあったのと、トタン屋根のガタガタ鳴る騒音と轟々と吹く風の音でなかなか寝付けず二階の窓から外を眺めていた。
すると、真っ暗で街灯も無い道を男らしき影がこちらへ向かって歩いてくる。
暗闇に目が慣れてかろうじて見えるくらいだが、こんな夜中に不自然な事だ。緊急の用でもなければ誰も出歩かない。なので、じっと目を凝らしてどこへ向かっているのか興味本位で注視していた。男は民家からかすかに漏れる灯りを頼りに歩いているようだ。
すると一際大きな、家がガタガタと揺れる程の風が吹いた。
向かい風に飛ばされないように前傾して歩いていた男が足を止めて踏ん張っている。
その瞬間に飛んで来たトタン屋根が男の首を刎ねた。男は首がないままニ、三歩歩くとそのままばたりとうつ伏せに倒れた。
恐ろしくなって窓から離れた。見なかったことにして布団に入った。
祖父は台風の日に外に出てはいけないと言っていた。窓の外も見てはいけないと。祖父の家の横を流れる小川には今も首だけの霊がいる。
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