プロローグ

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 私は恋愛というものがよく分からない。多分、誰かを好きになるという感覚を分かっていない。  だから、何となく付き合って楽しい時間を過ごしていると思っても、相手はそれ以上の気持ちを求めて来るから、温度差が生じてなかなか上手くいかない。  付き合う度に真摯に向き合って、その人を好きだと思っていたつもりだったけど、恋愛感情というものが分からないのは事実だった。 『おまえの好きと俺の好きは違う』  いつも、みんな決まり文句のようにそう言って去って行く。そして、そう言われてしまうと何も言い返せず、そのまま別れるしかなくなる。  今も、まさににその時なのかもしれない。  だけど、周人の口からはまだその決まり文句は零れず、唇を噛みしめて黙っていた。 「面倒くさいと思うのは、いけないことなの? 今日は楽しかったんだから、それでいいじゃん」  私はそんな言葉を吐きながら、この人はどう出るのだろうか? と観察していることに気が付く。自分がこのまま付き合いを続けたいと積極的に思っているわけでもなく、周人が続けると言えば面倒はないし、別れたいなら仕方がない、と漠然と思っていたのだ。  そんな最低な自分の心に気が付くことが、誰かと付き合っていく中で一番うんざりすることだった。
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