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「アクスのこともあったし、君が団長を良く思ってなかったのは知ってるけどさ……」
それにしても限度っていうものがあるだろう、と、まさにうんざりといった風を隠しもせずにワーズが言う。
それを、俺は鼻で笑い飛ばした。
「限度……? あれしきのこと、生ぬるい限りじゃないか。報復にさえ当たらないだろ」
「――聞くのが怖い限りなんだけど、あれのどこが報復じゃないって……?」
「気持ちよくさせてあげたうえに、新たな扉まで開いて差し上げてやったんだから、感謝くらいしてもらってもいいんじゃね?」
言った途端、ワーズが心底イヤそう~な“聞かなきゃよかった”という表情になって、俺を見やる。
「とにかく俺は退屈なんだよ。アクスも居ないしさ」
彼のことを、俺はわりと気に入ってたのだ。――というか、ぶっちゃけ自分と対等な勝負が出来るのは、あいつしかいないと思ってた。
近衛騎士は王の親兵であることから、その多くは貴族出身者ばかりで固められている。平民にとっては狭き門このうえないが、とはいえ儀仗騎士の役割をも兼ねているため、ある程度の実力さえあれば、家柄問わず見目の良い若者から選ばれるようにもなっている。
だから、ここの同僚は、そこそこ腕の立つ見た目もさほど悪くはない貴族出身者が大多数で、残りは、俺のような見目麗しい平民出身者、っていうところだ。騎士の資格を得られているくらいだから、皆ある程度以上には腕の立つ者たちではあるのだが、それでも滅法の使い手までは、そうそう居てくれやしない。
腕も美貌も、ついでに出来のいいオツムまで兼ね備えているのなんて、この俺くらいしか居ないのだ。
アクスは、そんな俺に唯一張り合えるだろう逸材だったのに……それを、あのクソ団長、つまんねーことさせて飛ばさせちまいやがって。
意趣返しの一つや二つ、してやりたくもなるくらいには、俺は怒っているのだ。あれしきのことくらいで気が済むはずもないだろうが。
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