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「――今は、そんな気分じゃないんだけどな……」
「そんなこと言うなって」
そう軽く返した男が、下卑た笑顔を浮かべながら、こちらを見下ろしている。
夜、食堂を出て宿舎に戻ろうと歩いていたところを、いきなり腕を掴まれるや、近くの藪の中に引きずり込まれた。それをした男は、まさに舌舐めずりをしながら、立ったまま楽しそうに俺の身体をまさぐってくる。
面倒くさがって俺が抵抗らしい真似もしないでいる所為で、自分に気があるとでも思ってくれちゃったものか、やや調子に乗っているフシがある。
焦れたようにベルトの留め具を外してくると、緩めたズボンを下着ごと下ろし、俺の後ろの蕾へと直に手を触れてきた。
「団長を抱くよりも、ずっと気持ちいい想いさせてやるよ」
――あーあーあーいるよねーこういうタイプー……。
白けるよなー、こういうの。きっとコイツの中では、俺ってば処女なんだろうなー。コイツの“初めて”はオレが仕込んでやるぜ、的な支配欲にでも燃えてるんだろうが……馬鹿じゃねえの?
間に合ってます、と当然その手を振り払うことも出来たが、それも面倒くさかったし、また何より、久しぶりに他人にそこをイジられる気持ちよさの方が勝った。所詮、俺も快楽に弱い男の一人、後ろの孔を指で解されながら前を口で舐られるという快感の前では、もうこのままヤらせてもいいかと、早々に考えることを放棄する。
――それにコイツ、ナニゲに上手いし。
さすが自信タップリに俺へ近付いてくるだけのことはある。そういやここはホモの巣窟と名高い近衛騎士団だ、コイツも相当、男とヤり慣れているんだろう。
一発くらいなら別に明日にも響かないし、このままヤらせてやるか。あまりにもシツコイようだったら、その時はその時で考えよう。
そう決めて、もっとグッと来いや! とばかりに、俺の股ぐらに顔を埋めている男の身体へ、絡ませるようにして片脚を掛けた。――そんな時のこと。
「――邪魔したようだな」
ふいにガサリと繁みの揺れる音がした、と思ったら、そんな低い声が響いてくる。
そちらを振り返った俺たち二人は、揃って同時に硬直した。
だって、そこに立っていたのは……、
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