【前編】

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 震える声で、俺の股間から男が呟く。 「ふ、副団長っ……!」  近衛騎士団副団長――アレクセイ・ファランドルフ。  天下の名門貴族ファランドルフ家の、よりにもよって当主の息子という、思いっきり直系ド真ん中のお坊ちゃま。  近衛は貴族の坊っちゃん連中の集まりではあるが、それにしても格が違う。――違いすぎる。  その出自ゆえにトントン拍子で出世して、まだ二十代という年齢ながら早や近衛騎士団の№2にまで君臨しているという、規格外なお人だ。  なお、それだけにとどまらず。  最高峰の騎士とはいえ所詮は武官、その身分なんて高が知れており、近衛騎士団の団長になってようやく爵位を許され貴族を名乗ることができる、その程度でしかない。  というのに……まだ副団長の身でありながら、既に男爵として爵位と相応の領地も有しており、王宮の外に自分の屋敷を持つことまでも許されているという。  あらゆることにおいて規格外も甚だしい雲の上の住人――それが、アレクセイ・ファランドルフ副団長だったのだ。  であれば当然、近衛騎士団内においても、団長を凌ぐほどの権力を持っていることは当然というものであり。  また更に、近衛騎士団の気風に染まらないこと甚だしく、団員同士による男色関係を好まないことでも有名だった。  実際、上官の小姓に付けられた新人騎士は当然、当の上官以外の有象無象からもケツを狙われ易い立場なのだが……わりと小柄で細身で見た目にも組み伏せ易そうなワーズが、ああもケロッと無事でいられるのも、この副団長の小姓に付いているからだ。  彼の袖を引こうとした者はことごとく、副団長の小姓だと気付くや、即座に手を引っ込める。  きっと皆、副団長の機嫌を損ねてしまった時の恐ろしさを、よーく知っているのだろう。
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