【前編】

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 つい最近も、俺と同室の残りの一人――セオ・グラッドが小姓として付いていた上官が、あまりにも男色に耽溺しすぎたがゆえの放逸さと度重なる職務怠慢を咎められ、副団長直々の裁断による除隊処分を下されたばかりである。  ――まあ、とはいえ、そこは同情のしようもないけどな。その除隊になった上官というのが極めてエゲツナイ奴で、本当に仕事全部ほっぽり出しては側近連中を巻き込んで色事にばかり耽るという、近衛幹部の風上にも置けないような馬鹿だったのだから。それこそ、昼夜問わず相手をさせられなければならない立場のグラッドが、本当に可哀相だった。後から聞いたところによると、毎年新人騎士が小姓に付けられるたびに同じようなことを繰り返していたというのだから、ホント救いようが無い。あんなヤツ、辞めさせられて然るべきだろう。  そんなこともあって、より一層このファランドルフ副団長の男色嫌いが広まってしまい、また同時に、団内での威厳を更に高めることにもなっていた。  もともとが、常に感情を表に出さない、厳めしい顔つきをしている、ってこともあるしな。それなりに整った男くさい美男子ではあるのだが、何を考えているかを余人に読ませないところが、ソラ恐ろしいことこのうえない。  そんな副団長だから……よりにもよって、こんな現場を押さえられてしまったが最後、悪印象を与えること甚だしい限りではないか。  俺にむしゃぶり付いていた男が、呟くなりピッと姿勢を正して敬礼をかましながら、「失礼いたしました!」と頭を下げるや、一目散に逃げ去ってゆく。――あ、このやろ、俺一人置いて行きやがって!  しかし、それでも俺はまだ硬直が解けず、丸出しにされたままの下半身を隠すことすらも忘れ、しばし呆然としながら、こちらを見つめてくるその人を見つめ返しているしか出来なかった。
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