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「――ちょっと、セルマ……」
呼ばれて即座に「ああ!?」と凄んでしまった俺の、振り返った先には、どことなく困ったような表情のワーズが、おずおずと立っていた。
今は新兵訓練の真っ最中。同期入団の面々と試合形式の剣術鍛錬で総当たり戦。その順番が回ってくるのを、訓練場の片隅でイライラしながら待っていたところだった。
「何があったかは知らないけどさ……」
そんな俺に、ワーズが言う。やっぱりおずおずとしたような口調で、もはやタメ息混じりに。
「その、あからさまな不機嫌オーラ、ちょっとは引っ込める努力とかしてくれない? みんな怖がってるから」
どんだけ周囲が引いてると思ってんの? と続けられて、そういえば最近、誰もが俺を遠巻きにしていたな、などと思い当たる。――そうか、怖がられてたのか俺。
「せっかく元が綺麗なんだから、もうちょっとくらい猫かぶってニコヤカにしてなよ。そう始終ムッツリしてばかりいたら、美人も台無しじゃん」
「馬鹿言うな」
そして俺は、不機嫌オーラを引っ込めることも無く、堂々とそれを告げてやった。
「この美しい俺様に限って、どんな変顔をしてみせたところで、コレッポッチでも美しさが損なわれることなど絶対に有り得ないな!」
「うわあ、痛んでる……相変わらずどこまでも痛んでるね、君は! 本当にガッカリだよ! 残念度合いがハンパ無いよ!」
「そう褒めてくれるなよ、照れるじゃないか」
「褒めてないし!」
相変わらずのツッコミ裏拳を凄まじい切れ味で繰り出してくれながら、「ああもう…」と呻くなり、ワーズが頭を抱えて天を振り仰ぐ。――相変わらずのオーバーリアクション……そっちの方に俺は引くぞ。
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